短編 | ナノ


▼ 吠舞羅×伏見



「俺これから鎌本達と一緒にゲーセン行くけどお前も行くよな?」

面倒くさい、正直そう思った。いつもは行きたくなくても渋々一緒に行くのだが今日は特別行きたくなかった。このままバーでぼーっと過ごすか帰りたかった。とりあえずこのままでいたくもないのでバイトを探すために求人誌見ながら家でゴロゴロしたいのが本音だ。でもそんなことを言えば美咲がうるさいので言わないのだが。

「いや、今日は俺はいい」
「え、なんでだよ」
「別に…理由なんて無い。さっさと行けよ」
「は?」

まただ。やっぱり俺が断ると不機嫌になる。それが少し嬉しくもあるのだが面倒でもある。お前と2人ならまあ行ってもいいんだけどなんでその沢山のクズ共と一緒に行動を共にしないといけないのか。

「お前どうせここにいてもやること無いんだろ?じゃあ行こうぜ」
「……」

そのまま黙っていると後ろから鎌本が美咲を呼ぶ声がした。それに返事をしたあと少し苛立ったように俺の腕を引っ張ったその時だった。

「八田、伏見を離してあげて」
「っ、十束さん」

どこから現れたのかいつの間にか俺の隣に十束さんが立っていて、にこりと笑って俺の腕を掴んでいた。それにすこし戸惑いながらなんでですか、と美咲が言う

「伏見は今日は俺の趣味の手伝いをしてもらうから」
「え」
「え、じゃないでしょ伏見。約束したじゃん。」
「…」
「だから、ね?八田は鎌本たちと遊んでおいでーほら行って行ってー」

無理矢理背中を押して出掛けるように促す。その間も美咲は何かギャーギャー喚いていたけどそれを上手に聞こえないふりする十束さんはやっぱり美咲の扱いが上手い。
というか十束さんの趣味の手伝いなんて初耳だ。そんなの約束した覚えはない。それを言おうと十束さんを睨むと、助けてあげたのにそんな目で見るのは無いんじゃない?と困ったようにまた笑う。

「俺、手伝いとか聞いてないです」
「そうだね、初めて言ったもん」
「…俺帰ります」
「駄目。」

この人に少し強く言われると怯んでしまう。それがとても気に食わない。舌打ちしたあとはいはいわかりました、と渋々引き受けると、満足したようにじゃあはいコレ、と紙切れを渡され、目を通してみるとその紙には何やらレシピのようなものが書かれている。

「なんですか、これ」
「茶碗蒸しのレシピ」
「は?」
「俺今茶碗蒸し作るのにハマっててさあ!すごいんだよ簡単に作れるのに誰でも美味しく作れちゃうんだよ」
「…はぁ」
「はい、じゃあ買い出し行くよ」

無理矢理手を掴まれる。離してください、と呟くと更に力が増して、伏見の手冷たいねーと返される。この人、やっぱり嫌いだ。





BARに帰ってくると、想像通り草薙さんが目を見開いてなんやこれ、と呆気にとられたように十束さんに問いかけた。それを何でもないかのように笑いながら茶碗蒸しの材料、と答える姿に、溜め息が草薙さんと重なった。

「…で、これどこでやるつもりなん」
「もちろんこっちで」
「仕事の邪魔なんやけど」
「そんなこと言わずに!邪魔なんかしないよ!」
「男2人がこんな狭いとこ居るだけで邪魔や!」
「えー材料切って液作って器に入れて蒸すだけなのにー。そうだ!商品としてお店に出せばいいじゃん!美味しく作れちゃう自信あるよ?」
「BARで茶碗蒸しってどう考えてもおかしいやろ!お前の頭どうなっとんねん」

そうだ。草薙さんもっと言ってくれ。そうしたら俺はこの人から解放されて家に帰れる。はず。

「ダメや!」
「だって伏見だって食べたいって言ってるし!」

言ってない。どれだけ適当なことを言えば気が済むんだこの人は。

「そうなんか?伏見…お前がなんか食べたいって言うなんて…」
「いえ…」
「伏見?」

呼ばれて振り向くと、物凄く脅迫するような笑顔で俺を凝視している十束さん。そこまで茶碗蒸しが好きか。

「……はい。俺、茶碗蒸し大好きなので」
「…なんや棒読みに聞こえるんやけど」
「そんなことない…ですー…」
「ハァ…しゃーないな…すぐ済ませるんやでー」
「ありがとう草薙さん!じゃー伏見そこで椎茸水に戻したあと人参切ってそのあと銀杏の缶詰開けてボウルに移してー」
「はい……」

馬鹿みたいにはしゃぎながら料理をする十束さんに呆れていると、また苦手な人の声が増えた。

「…うるせぇぞ十束…」
「お!キング!おはよー」

いつも二階で寝ているのに今日に限って起きてきたらしい。この人がうるさいせいだ絶対。

「何作ってんだ」
「茶碗蒸しだよー!伏見が食べたいって!」
「ちょ、」
「ふーん…」

そっけない返事を返したあと、お決まりのソファに腰をかけてまた目を閉じる尊さん。何しにきたんだ。
するとよそ見していたせいで少し指を切ってしまった。

「…」

言えばうるさくなることは目に見えているので黙って作業を続けていようかと思ったが一向に血が止まらない。とりあえず水で流そうと考えたとき十束さんがこちらに気付いてしまった。

「伏見!?血出てるじゃん!!」
「は!?」
「いや…これくらいなんともないですから…」

やっぱりこうなる。十束さんが救急箱!と叫んで草薙さんが見してみ!と顔面蒼白になりながら言う。親か。
尊さんまでもがいちいちソファから立って俺の所にくる始末だ。

「大袈裟すぎです」
「いや、血止まらへんやん!深く切って…」

尊さんが俺の指を掴んで口に含んだ。突然のことに驚いて顔が熱くなるのがわかる。

「ぅ、な、何やってるんですか」
「尊お前何しとんねん!それ俺の役割や!」
「は?」

草薙さんらしくない頭の湧いたような台詞に驚いたのも束の間、十束さんが絆創膏の入った箱を持ちながら戻ってきた。

「さ、伏見座って!」
「いや、絆創膏貼ればいいだけじゃないですか自分で出来ます」
「伏見、指出せ」
「キング絆創膏準備するの早くない!?いつの間に俺から取ったの!?」
「お前は茶碗蒸し作るのに戻れ。」
「むぅー」

渋々戻っていく十束さん。草薙さんも自分の仕事に戻っていった。
この人に抗えるはずもなく、素直に指を差し出して手当てをしてもらう。沈黙。気まずい。

「…あの」
「なんだ」
「なんで俺に構うんですか」
「…なんでだと思う」

質問に質問で返すなんて卑怯だ。イライラしながらもそれを悟られないように分からないです、と返す。それにフッ、と笑う尊さん。ムッとしてなんなんですか、と言いかけて、傷口を尊さんがぐっと押した。

「いっ…!」
「あぁ、悪ぃ、これで終わりだ。」
「…わざとですか…」
「何がだ」
「…なんでもないです有難うございました俺戻ります」
「待てよ」

尊さんの隣から去ろうするが肩を押されて阻止される。するとドサリと覆い被さってきて、顔が近づいてきた。そのまま唇を重ねられ、突然のことに頭がパニックになる。

「…!?んんん、んーッ!、!」

離せと言わんばかりに尊さんを押す。だけどそれも虚しく腕を掴まれる。舌を入れられて歯列をなぞられながら舌を吸われれば悔しいが気持ち良くて抵抗なんかできない。必死で鼻で息を吸いながら目をうっすら開ければ不敵に笑う顔がある。やっと口を離された時にはもう息が上がっていて、頭がボーっとしていた。

「はぁ、っはぁ、なん…、なんすか、」
「これがさっきの答えだ」

楽しそうに舌なめずりする姿に苛立ちと共に言い表せない感情が背中をゾクリと駆け抜ける。何も言えずに尊さんを見つめたままでいるとまた俺の胸ぐらを掴んで口を重ねてきた、その時だった。尊さんの頭上に鉄拳が落とされた。

「…いってーなぁ…」
「あああああ!?尊お前何しとんねん!それは許さへんで!」
「伏見遅いなーと思ってたら何してんのキング!!羨ましすぎ!抜けがけだよ!」

ギャーギャーと騒ぐ大人3人を尻目にそっとソファから立ち去る。帰っていいかもう。

指に巻かれた絆創膏を見てさっきの尊さんを思い出す。まだ心臓がバクバク言ってて、それが恥ずかしくて悔しい。その思いをかき消すように舌を打った。






空さんからのキリリクで伏見の愛され話で尊さんオチでした!こんな感じでよろしかったでしょうか…キリリク有難うございましたー!!





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